仕事がしんどい

仕事がしんどいのは、心が弱いからではない|内なる声が行動を苦役に変える

はじめに

朝、仕事のことを考えると、胸のあたりが重くなる。特別に過酷な職場というわけでもない。周りは同じ業務を、涼しい顔でこなしているように見える。それなのに、自分にとっては、一日一日がやけに重い。この重さを前に、多くの人が自分を責めます。自分は心が弱いのだ、打たれ強さが足りないのだ、と。

仕事がしんどいときの対処法を探している方は多いはずです。本記事が置くのは、その一段手前の問いです。そのしんどさは、あなたの心の弱さから来ているのか、それとも、あなたが仕事に向けている言葉が、しんどさを作り出しているのか、その構造です。

結論を先に示します。しんどさは、多くの場合、あなたの内なる声が、その仕事を「苦役」として脳に定義し直していることの表れです。そしてこの作用は、あなたの意志の強さとは無関係に、言葉を使うだけで自動的に起きます。

一日に何万回も、自分にかけている言葉

まず、あなたの頭の中で、絶えず流れている独り言に、目を向けます。私たちは、声に出さずとも、一日に膨大な回数、自分自身に言葉をかけています。「早く片づけないと」「またこれをやるのか」「ミスできない」——。

この内なる声は、たいてい無意識で、自分では気づきません。けれど、その内容は、あなたが仕事をどう感じるかを、静かに決めています。心理学では、こうした自分への語りかけが、少しずつ自分についての信念をかたちづくることが知られています。「またこれをやるのか」という言葉を、仕事のたびに自分にかけていれば、脳はその仕事を、確実に「気の重い、避けたい何か」として学習していきます。しんどさは、仕事そのものから直接生まれているというより、仕事に向けた言葉を通して、あなたの内側で醸成されているのです。

「やらねば」が、行動を苦役に定義し直す

とりわけ強く働くのが、「やらねば」「こなさなければ」という形の言葉です。この種の言葉には、隠れた前提が含まれています。「これは、やりたくてやっているのではない。強いられている」という前提です。

「やらねば」と自分に言うたびに、あなたはその行動に、「やりたくないこと」という札を、そっと貼り直しています。同じ資料作りでも、「作りたい」で処理すれば創作になり、「やらねば」で処理すれば苦役になる。中身は一ミリも変わらないのに、名づけだけで、経験の色が反転する。そして怖いのは、この作用が、気合いや意志の力で打ち消せるものではないことです。言葉を使った瞬間に、脳は自動的にその行動を苦役として処理しはじめる。あなたが感じている重さは、心の弱さの証ではなく、この自動的な定義づけの、正常な結果なのです。

▸ この「やらされている」という定義が、動く力そのものを枯らしていくとき、何が起きているかは、何もしたくない、そのだるさの正体で扱っています。

出口は、心を強くすることではない

だから、しんどさから抜ける道は、心を鍛えて、しんどさに耐えられるようになることではありません。それは、苦役という定義をそのままに、耐える力だけを増やそうとする試みで、根本の重さは変わらないからです。

まず見るべきは、自分が仕事に向けている言葉のほうです。どれだけの活動を、「やらねば」で処理しているか。その中に、本当は「やりたい」で処理できるものが、紛れていないか。名づけを変えられる部分は変える。そして、どうしても「やらされている」としか名づけられない部分については、その仕事があなたの生活を支える構造そのものを、少しずつ見直していく。言葉だけを変えても、生活の不安が「やらねば」を再生産し続けるなら、声は戻ってきます。だから、名づけと構造の両方を、同時に見る必要があります。ここで添えておくと、これは、しんどさを気の持ちようで片づけよ、という話ではありません。むしろ、しんどさの正確な出どころを見て、耐える以外の一手を見つけるための視点です。

まとめ:重さの出どころは、言葉にある

仕事がしんどいのは、あなたの心が弱いからではなく、内なる声が、その仕事を「苦役」として脳に定義し直しているためでした。とりわけ「やらねば」という言葉が、行動に「やらされている」という前提を貼り、意志とは無関係に、自動的に重さを生みます。

必要なのは、心を鍛えて耐えることではなく、自分が仕事に向けている言葉と、その仕事を支える構造を、同時に見直すことです。同じ仕事を、耐えるべき試練として見るのか、名づけの問題として解剖するのかで、翌朝の重さは変わってきます。その全体像は、「完璧にやらねば」が消えない構造にまとめています。

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参考文献

【学術論文・理論】

  • Deci, E. L., & Ryan, R. M. Intrinsic Motivation and Self-Determination in Human Behavior(1985)Plenum Press
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