評価という上司

案件を選べる自由の裏で、評価が上司になる|プラットフォームの統制

はじめに

仲介の仕組みに登録して、初めて仕事が決まった日のことを覚えている人は多いはずです。自分で営業に回らなくても、仕事のほうから流れてくる。受けるか断るかは自分で選べる。上司はいない。ここには確かに、会社員時代にはなかった選択の余地があります。

案件の取り方や単価の上げ方については、すでに情報が揃っています。本記事が扱うのは、その仕組みの上で働くとき、選ぶ自由と引き換えに、何が新しく自分の上に立つのかという部分です。

結論を先に示します。人間の上司から解放された代わりに、評価という新しい管理者のもとに置かれています。 そしてこの管理者は、かつての上司より、ある意味でずっと手強い。事情を説明する相手が、そこにはいないからです。

便利な仕組みは、同時に新しい主人でもある

仕事を仲介するサービス、スキルを売り買いする場、成果物を並べて売る場。こうした仕組みは、顧客を探す手間を減らし、取引を仲立ちし、代金の回収さえ肩代わりしてくれます。一見すると、独立者の負担を軽くする便利な仕掛けです。

けれども、こうした仕組みを通じて働くとき、人は新しい種類の主人のもとに置かれます。それは、その仕組みそのものです。 仕組みは手数料を取り、表示の順位を決め、評価の仕掛けを運営します。そして、その上でどう扱われるかは、多くの場合、評価スコアや順位によって決まります。良い評価を集めれば上位に表示され、多くの仕事を得られる。低い評価がつけば埋もれ、仕事が減る。この評価の仕掛けが、生活を静かに、しかし強く左右します。

評価スコアは、上司と同じ仕事をしている

評価スコアの働きを見つめると、それがかつての上司と驚くほど似た役割を果たしていることに気づきます。

上司は、部下の働きを評価し、その評価が昇進や賃金や仕事の割り当てを左右しました。評価スコアも、働きを評価し、その評価が表示の順位や仕事の量や報酬を左右します。役割は同じです。 独立した人は、上司から解放された代わりに、評価スコアという新しい評価者のもとに置かれています。

そして、この新しい評価者は、かつての上司より、ある意味でずっと手強い。上司なら、事情を説明し、交渉し、関係を築くことができました。評価スコアには、事情を説明する相手がいません。 それは多くの場合、機械的な仕掛けによって、一方的に算出されます。

現代の労働社会学は、この現象を正面から研究してきました。仲介の仕組みを通じた働き方において、労働者は人間の管理者ではなく、自動化された仕掛けによる管理のもとに置かれる。仕事の割り当ても、評価も、報酬も、人間の判断ではなく仕掛けによって自動で決まっていく[Vallas & Schor, 2020/Wood et al., 2019]。研究者たちはこれを、新しい形の労働の統制として分析しています。

ここで、はっきりさせておきます。これは特定のサービスや事業者を非難する話ではありません。 個々の仕組みには、独立者の負担を実際に軽くしているものも多くあります。見つめているのは、仲介という形態が構造として生む、管理の性質のほうです。

評価を守るために、自分を曲げるという振る舞い

この構造がもたらす実際の変化は、日々のやりとりのなかに現れます。

低い評価がつくことを恐れて、本来なら断るべき無理な求めにも応じてしまう。本来なら主張すべき正当な言い分を呑み込んでしまう。評価を守るためにとっている振る舞いは、会社員が上司に対してとるような、従順な振る舞いそのものです。 誰にも雇われていないはずなのに、評価という姿の見えない上司の顔色を、絶えずうかがっている。

独立して自由になったという感覚と、この従順な振る舞いとの落差には、しばらく気づけません。なぜなら、この新しい上司は姿が見えないぶん、上司として認識されにくいからです。けれども、評価を気にして自分を曲げているという事実は、依然として管理のもとにあることを、はっきりと示しています。

▸ 取引先を増やしても依存そのものが減らない理由は、下請け構造から抜けても依存は断てないで扱っています。

「上司からの解放」という物語のもろさ

ここで見えてくるのは、独立が「上司からの解放」であるという物語の、もろさです。

人間の上司を失った代わりに、評価という新しい上司を得ている。管理者が人間から仕掛けに変わったことは、人を自由にしたのではなく、むしろ、交渉の余地のない、より非人格的な管理のもとに置いたとも言えます。上司の顔が人間から仕掛けへ変わっただけで、管理されているという構造そのものは、独立によっても消えていません。

案件を選べるという自由は、本物です。けれども、それは「どの仕事を受けるか」という選択の自由であって、「何を作り、いくらで売るかを最終的に決める」という、生産についての決定の自由ではありません。選べる範囲は、仕組みが用意した選択肢の内側にあります。

まとめ:選ぶ自由と、決める自由を分けて見る

案件を取り続けても消耗が減らないのは、営業が下手だからでも、評価を集めきれていないからでもありません。選ぶ自由は手に入っても、決める自由——何を作り、いくらで売るかを最終的に自分の側に置くこと——は、まだ手に入っていないからです。

必要なのは、問いを掛け替えることです。「どうすればもっと良い案件を取れるか」ではなく、「この仕組みの上で、私の働きを最終的に値づけしているのは誰か」。同じ日々を眺めても、自分の営業力の問題として見るのか、管理の構造として見るのかで、次に進む方向は変わります。

その全体像は、「起業すれば自由になれる」という物語の構造にまとめています。

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参考文献

【学術論文・理論】

  • Vallas, S., & Schor, J. B. “What Do Platforms Do? Understanding the Gig Economy” Annual Review of Sociology, 46(2020)
  • Wood, A. J., Graham, M., Lehdonvirta, V., & Hjorth, I. “Good Gig, Bad Gig: Autonomy and Algorithmic Control in the Global Gig Economy” Work, Employment and Society, 33(1)(2019)
  • Marx, K. Das Kapital, Band I(1867)Verlag von Otto Meissner(邦訳『資本論』第一巻)
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