将来が不安なのは

将来が不安なのは弱さではない|不安が設計されている地形を読む

はじめに

将来が不安だ。この先、自分はどうなるのか。ちゃんとやっていけるのか。夜になると、その不安が急に音量を上げる。そして、多くの人は、その不安を感じる自分自身を、責めはじめます。「こんなことで不安になる自分は、心が弱いのだ」「まわりは平気そうなのに、動揺している自分は、おかしい」と。

将来不安の手軽な解消法は、すでに多く語られています。本記事が置くのは、その一段手前の問いです。その不安が、本当にあなたの内側から自然に湧いたものなのか、それとも、外から設計されたものなのか、という問いです。

結論を先に示します。あなたが感じている将来不安は、あなたの心の弱さの証拠ではありません。それは、産業と、経済構造と、外から書き込まれた物差しが、三重に噛み合って造成した、設計された地形の、正常な作動です。地形がそう造られているから、あなたは焦る。焦るように、地形が造られているのです。

「あるべき状態」を定める物差しは、どこから来たか

不安とは、突き詰めれば、「あるべき状態」と「いまの状態」の差を感じることです。理想と現実の隔たり。その隔たりが大きいほど、不安は深くなります。

ということは、不安の深さは、「いまの状態」だけでなく、「あるべき状態」をどこに置くかによっても、決まります。あるべき状態を高く置けば、同じ現実でも、隔たりは大きくなり、不安は深くなる。「三十五歳までに、これくらいであるべきだ」「同世代の平均より遅れてはいけない」——こうした「あるべき」の一つ一つを、あなたは、自分の内側から選び取ったのでしょうか。それとも、無数のメッセージを浴びるうちに、いつのまにか受け取って、自分のものだと思い込んでいるのでしょうか。

この基準は、生まれつき備わっているものではありません。赤ん坊は、「今のままではダメだ」とは思いません。私たちは、成長する過程で、外の世界から、無数の基準を受け取ってきました。あなたが何を「不足」と感じるかは、あなたの中に書き込まれた基準によって決まります。しかも、その基準は、書き換えることができる。誰かが、あなたの「あるべき状態」を、少しだけ高いところに書き換えれば、あなたは、現実は何も変わっていないのに、突然、「足りない」と感じはじめます。基準を書き換えるだけで、人を不足の感覚へと突き落とすことができる。これが、不安を供給する、もっとも深い手口です。

拒むべきメッセージが、見当たらない

なぜ、私たちはこの書き換えに気づき、抵抗できないのでしょうか。答えは、この操作には、拒むべき「メッセージ」が、見当たらないからです。

ふつう、私たちが何かに抵抗するとき、そこには、抵抗すべき対象があります。「これを買え」という勧誘。「こうしろ」という命令。こうした明確なメッセージが向けられたとき、私たちは、それを吟味し、受け入れるか拒むかを判断できます。ところが、物差しの書き換えは、あなたに何かを主張しません。それは、あなたが物事を評価する、その基準そのものを、静かに設定します。基準は、主張ではありません。だから、それに対して「反対だ」と言うべき対象が、存在しないのです。

たとえば、「三十五歳までに管理職になるべきだ」という基準が、あなたの中に書き込まれたとします。この基準は、あなたに何も命令しません。ただ、あなたが自分のキャリアを見るときの、目盛りになる。三十五歳で管理職でないあなたは、その目盛りに照らして、自動的に「遅れている」と感じます。あなたは、自分の内なる目盛りで、自分を測り、勝手に不足を感じている。操作が、あなたの外にあるメッセージとしてではなく、あなたの内なる基準として作動するため、抵抗の矛先が、どこにも向けられません。これが、この根が、これほど深く、これほど長く、人々の中に残り続ける理由です。

▸ この「市場価値」という物差しが、どう評価の主権を奪うのかは、市場価値を高めるという言葉が隠すもので扱っています。

自分を責めることが、回路を回す燃料になる

物差しが自分のものだと信じているとき、その物差しが示す「不足」も、自分の現実だと感じられます。そして、その不足を解消できないのは、自分の力が足りないからだ、と結論する。物差しの出所を問わないことが、不安を、そのまま自責へと変えてしまいます。

この自責には、都合のよい効果があります。あなたが自分を責めているあいだ、あなたは、構造に目を向けません。問題の原因を、自分の内側に探している人は、外側の構造を疑わない。さらに、自分の不足を埋めようと、いっそう熱心に、商品を買いにいきます。自責は、あなたを構造から目を逸らさせ、同時に、あなたを商品へと駆り立てる。自分を責めることが、そのまま、回路を回す燃料になっているのです。

まわりが平気そうに見えるのは、彼らもまた、同じ地形の上で、同じように焦りながら、それを見せていないだけかもしれません。けれど、その内側は見えないので、あなたは「自分だけが動揺している」と感じ、いっそう自分を責める。他人の平静な表面と、自分の動揺する内側とを比べるこの非対称が、自責を、さらに深くしていきます。

まとめ:責める相手を、自分から構造へ移し替える

将来が不安なのは、あなたが弱いからではなく、外から書き込まれた物差しが、正常に作動している音でした。設計された地形の上に立っているから、あなたは焦る。それだけのことです。

この認識には、すぐに効く実利があります。地形が自分を焦らせているのだと分かれば、焦る自分を責める理由が、消えます。あなたは、弱いから焦っているのではなく、焦るように造られた地形の上に、立っていただけだった。この認識は、あなたを、裁かれる者の席から、構造を解剖する観察者の席へと、移してくれます。そして、自然な感情は変えようがありませんが、設計された地形は、造り変えることができる。防御の第一歩は、焦りを感じるたびに「いま、私はどの物差しで測っているのか」と、視座を一段上げて問い直すことです。その全体の設計図を、次の一歩として受け取ってください。この設計された地形がキャリア不安全体でどう働くかは、キャリアアップしても将来の不安が消えない構造にまとめています。

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参考文献

【学術論文・理論】

  • Deci, E. L., & Ryan, R. M. Intrinsic Motivation and Self-Determination in Human Behavior(1985)Plenum Press
  • Kahneman, D., & Tversky, A. “Prospect Theory: An Analysis of Decision under Risk”(1979)Econometrica, 47(2)
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