自己犠牲

「自分を犠牲にしている」と感じる仕事はなぜ苦役になるのか|義務に変わる仕組み

はじめに

同じ業務をこなしていても、ある日は淡々と進み、ある日はひどく重く感じる。とくに、「自分ばかりが割を食っている」「自分を押し殺して合わせている」と感じはじめると、仕事は途端に、耐えるべき苦役の色を帯びます。そうして、多くの人が思います——自分の我が強いのか、それとも忍耐が足りないのか、と。

自己犠牲をやめる方法を探している方は多いはずです。本記事が置くのは、その一段手前の問いです。「自分を犠牲にしている」というその感覚は、仕事の中身から来ているのか、それとも、その仕事をどう名づけているかから来ているのか、その構造です。

結論を先に示します。同じ活動を苦役に変えているのは、活動の中身ではなく、「やりたくないのに、やらされている」という前提を刻む、あなた自身の言葉です。犠牲の感覚は、この前提が生み出す影なのです。

「犠牲」という言葉が、活動に貼りつける前提

まず、「犠牲」という言葉が、心の中で何をしているかを見ます。何かを「犠牲にしている」と言うとき、そこには必ず、一つの前提が含まれています。「これは、本当はやりたくない。それでも、外の何かのために、やむなく差し出している」という前提です。

この前提が貼られた瞬間、活動の意味は反転します。自分の内側から出てきたはずの行動さえ、「差し出させられているもの」に変わる。人に何かを渡す行為でも、「喜んで贈っている」と名づければ喜びになり、「奪われている」と名づければ痛みになります。中身は同じでも、名づけが、経験の色を決めるのです。あなたが仕事に犠牲を感じるとき、その仕事が本質的に犠牲なのではなく、あなたが心の中で、その仕事に「やらされている」というラベルを、繰り返し貼り直しているのかもしれません。

内から動く活動には、「犠牲」がない

対照的な状態を見れば、これははっきりします。何かに心から打ち込んでいる人は、たとえ端から見て大変そうでも、「自分を犠牲にしている」とは感じません。

好きで打ち込んでいる人にとって、費やした時間や労力は、奪われたものではなく、自分が選んで差し出したものです。だから、そこに「割を食っている」という感覚は生まれない。犠牲の感覚が湧くかどうかは、活動の重さではなく、その活動が「内から選んだもの」か「外から強いられたもの」か、という処理の違いで決まります。心理学者のデシとライアンが示したように、人は、自分で選んでいるという感覚——自律性——を持てるとき、同じ活動をはるかに軽く、持続的に続けられます[Deci & Ryan, 1985]。犠牲の重さは、活動の量ではなく、自律性が奪われた度合いを、映しているのです。

▸ この「外から強いられている」という前提が、休めなさとしてどう現れるかは、働きすぎがやめられない理由で扱っています。

出口は、犠牲を数えることではない

だから、自己犠牲から抜ける道は、「どれだけ犠牲を払ったか」を数え上げ、その見返りを求めることではありません。その数え上げは、「やらされている」という前提を、さらに強く刻む行為だからです。

必要なのは、まず、その活動に自分が貼っているラベルを、いったん剥がして見ることです。この仕事のどこまでが、本当に外から強いられたもので、どこからが、自分で「犠牲」と名づけてしまっているのか。そのうえで、名づけを変えられる部分は変え、どうしても外から強いられている部分については、その構造そのものから少しずつ離れていく。犠牲を耐え比べのように積み上げても、報われることはありません。積み上げるほど、活動は重くなるからです。ここで添えておくと、これは、割に合わない状況にただ耐えよ、という話ではありません。むしろ逆に、耐えるのをやめて、名づけと構造の両方を見直すための視点です。

まとめ:中身ではなく、名づけを見る

「自分を犠牲にしている」と感じる仕事が苦役になるのは、仕事の中身のせいではなく、「やりたくないのに、やらされている」という前提を刻む言葉が、活動に犠牲の色を貼りつけるためでした。内から選んだ活動には、この犠牲の感覚が生じません。

必要なのは、犠牲を数えて見返りを求めることではなく、活動に貼った名づけを見直し、外から強いられた構造からは少しずつ離れることです。同じ仕事を、奪われているものとして見るのか、名づけと構造の問題として解剖するのかで、その重さは変わってきます。その全体像は、「完璧にやらねば」が消えない構造にまとめています。

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参考文献

【学術論文・理論】

  • Deci, E. L., & Ryan, R. M. Intrinsic Motivation and Self-Determination in Human Behavior(1985)Plenum Press
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