上位の商品を勧めても、選ばれるのは中間ばかりの方へ/中間が選ばれるのは、中間が最も良いと判断されたからではない

顧客単価を上げる段は価格ではなく、関係の種類で分けて作る

顧客単価を上げる段は、価格の順ではなく、関係の種類で分けて作ります。価格で並べた段は上がる理由を一つしか用意できず、その理由には相手の側の情報が一つも入っていないからです。

この「段」を扱う語として、バリューラダーがあります。無料や低価格のものから高価格のものまでを梯子のように並べ、下から順に上がってもらう設計を指す言い方です。実務では、その梯子は価格の順に組まれます。安いものが下、高いものが上。この記事が問うのは、その並べ方が何を根拠にしているのかという一点です。

顧客単価を上げる方法として案内されるのは、上位の商品を勧めることと、関連する商品を併せて勧めることです。どちらも実際に単価を上げます。ただし、この二つが前提しているものがあります。段があらかじめ存在していて、相手をその段の上へ移すのが仕事だ、という前提です。

段がどう作られたかのほうは、たいてい問われません。梯子の掛け方は与件で、登らせ方が課題として扱われます。ところが単価が上がるかどうかは、登らせ方より先に、梯子の段がどこで切られているかで決まっています。梯子の段がどこで切られているかという問いは、単価だけの問題ではありません。段の切れ目を読む三つの見方はマーケティングファネルの設計にあります。

価格の順に切ると、上がる理由が一つしか用意されません。「まだ高いほうを買っていないから」です。この理由には、相手の状態も、相手が何に困っているかも含まれていません。だから上の段は、下の段に量を足したものになりやすくなります。時間が長い版、回数が多い版、対応が手厚い版。量で切られた段は、量を必要としない相手を上へ運べません。

この問いは、まだ段を作っていない人だけのものではありません。すでに三つも四つも段を持っていて、それでも平均が動かないという場合にも、同じ一点が効きます。段の数と、段の切り方は、別の変数だからです。数を足す操作をいくら重ねても、切り方のほうは一度も動きません。

価格そのものの付け方は、ここでは扱いません。扱うのは、段と段のあいだに何を置くかのほうです。額をいくらにするかは、置くものが決まった後にしか決められません。順序が逆になると、先に決めた額に見合う中身を、後から探す作業に入ります。

答えが出るのは三つです。平均が上がったときに実際に何が起きているのか。段を価格で切ると、上位の段に何が入るのか。関係の種類で切るとは、どういうことか。

顧客単価の上げ方として案内されているもの

顧客単価とは、一人の顧客が一回の取引で支払う金額の平均を指します。売上を顧客数で割る形で計算されます。客単価とも呼ばれます。

案内される上げ方の中心は、二つの手法です。

第一に、アップセルです。相手が購入しようとしているものより上位の、より高価なものを勧める。上位版、長期契約、容量の大きい選択肢。

第二に、クロスセルです。購入しようとしているものと関連する別のものを、併せて勧める。付属品、補完する商品、組み合わせて使うもの。

このほかに、複数をまとめた組み合わせでの提供、値上げそのもの、購入点数を増やす仕掛けが挙げられます。

効き目として説明されるのは、売上への直接の寄与だけではありません。適切な提案は相手の満足度を上げ、繰り返しの購入にも繋がるという説明が添えられます。新規の獲得より費用がかからない、という比較も併記されます。

上位版を勧めれば一定の割合で選ばれますし、関連するものを併せて示せば購入点数は増えます。組み合わせは実際に平均を押し上げます。

そのうえで、二つの手法が共通して置いている前提を取り出します。いずれも、段が既に存在していることを前提にしています。上位版があるからアップセルができ、関連商品があるからクロスセルができる。

段があること自体は、当然であって問題ではありません。選択肢が一つしか無ければ、選ぶという操作が発生しません。

問題になるのは、段をどう切ったかが、上げ方の議論の外に置かれていることです。段の切り方は既に終わったこととして扱われ、議論は「どう移すか」から始まります。

移し方の議論だけを続けると、段の切り方は一度も検証されません。検証されないものは、たいてい最初に作られたときの形のまま残ります。最初の形は、多くの場合、価格を並べただけのものです。

段の切り方まで遡ると話が大きくなりすぎる、目の前の単価を上げたい——という言い分があります。

もっともです。そのうえで、移し方の改善には上限があります。提案の仕方をどれだけ磨いても、移る先が「同じものの多い版」しかなければ、移る理由は量の必要にとどまります。量の必要は相手の都合で増減するので、こちらの設計では動きません。

もう一つ、二つの手法には順序が示されていません。どちらから手を付けるかは、実務では作りやすい順に決まります。関連商品を並べるほうが、上位版を設計するより速く着手できます。作りやすい順は、効きの大きい順とは一致しません。

顧客単価は、こちらの構成を映した数字であって、相手の支払意思ではない

顧客単価とは、こちらが用意した選択肢の集合に対して、相手の選択が分布した結果の平均です。

呼び名を変えただけではありません。この数字が測っているのは、相手がいくら払う気があるかではありません。用意された選択肢の中で、どこが選ばれたかです。

同じ相手でも、選択肢の集合が変われば、選ばれる位置が変わります。三段のうち真ん中が選ばれていた状態で、上にもう一段足すと、それまで上位だった段が真ん中になり、選ばれる割合が上がります。

この現象は、消費者行動の研究で確認されています。イタマー・シモンソンは、選択肢の集合の中で中間の位置に来た選択肢がシェアを得ることを実験で示しました(Simonson, 1989, Journal of Consumer Research, 16(2), 158–174)。

同じ研究が、もう一つのことを示しています。この効果は、自分の決定を他者に説明する必要があると予期している被験者で、より強く現れました。

ここから読めるのは、中間が選ばれるのは、中間が最も良いと判断されたからとは限らないということです。選ばれる理由の一つは、説明のしやすさです。極端でない位置は、後から理由を述べやすい位置でもあります。

つまり、段を三つ並べて真ん中が売れているとき、その真ん中が相手の必要と合っていた保証はありません。合っていた場合と、説明しやすかった場合が、同じ結果として現れます。

説明しやすさで選ばれたとしても、選ばれたなら結果は同じではないか。そう問い返すことができます。

その場の結果は同じです。違いは、その後に出ます。必要と合って選ばれた場合、使われて、効果が出て、次に繋がります。説明しやすさで選ばれた場合、使われないことがあります。

使われなければ、次の判断の材料が相手の側に残りません。残らないので、次の購入の理由も生まれません。単価は上がり、継続は上がらない、という組み合わせが起きるのはこの経路です。

段を三つにするのが悪い、という話ではありません。選択肢が二つだと比較の基準が出ませんし、多すぎれば処理が重くなります。

言えるのは、真ん中が売れていることを「価格設定が適切である証拠」として読むのは危ういということです。その分布は、集合の形が作っています。

この構造を知ると、上に一段足して中間を作るという操作が、道具として使えることが分かります。実際に使えますし、効きます。

そして、使った瞬間に、判定の材料が一つ失われます。中間が売れたことが、必要と合っていた証拠なのか、集合の形が作った結果なのかを、こちらも区別できなくなるからです。

上の段を置くこと自体が操作にあたるわけではありません。実際に必要とする相手がいるなら、その段は存在すべきです。判定の線は、その段を誰かが選ぶことを想定して作ったか、隣を選ばせるために作ったかにあります。前者は買われても構わない段で、後者は買われては困る段です。

平均が上がったとき、実際に起きていることは三つある

顧客単価が上がったという記録の下には、性質の違う三つの出来事が入っています。三つは処方が違うのに、同じ数字として現れます。

第一に、同じ相手が、より多く払うようになった場合です。これは関係が深まった結果として起きます。範囲が広がった、頼まれることが増えた、上位の内容が必要になった。

第二に、相手の構成が変わった場合です。安い段を選ぶ層が減り、高い段を選ぶ層の割合が上がると、一人ひとりは何も変えていなくても平均は上がります。この場合、上がったのは平均であって、誰の支払額でもありません。

第三に、値上げをした場合です。全員の支払額が上がるので、平均も上がります。ただし、離れた人がいれば、その人の分は分母から消えます。離れた人が安い段に集中していれば、平均はさらに上がります。

三つは、事業の状態としてまったく別です。第一は関係の深まり、第二は集客の変化、第三は価格の変更です。

ところが、月次の集計で見えるのは「単価が上がった」という一行だけです。どれが起きたかを分けるには、集計の前の記録を見る必要があります。

分けずに読むと、何が起きるか。第二が起きているのに第一だと読むと、いまの提供内容が良くなったという解釈が残ります。実際には集客の入口が変わっただけなので、入口が元に戻れば単価も戻ります。そのとき、提供内容の側を疑うことになります。

結果として売上が上がっているなら内訳はそこまで重要か、という見方もあります。

重要になるのは、次に手を打つときです。第一が起きているなら、同じ方向を続ければよい。第二なら、入口の側を維持する必要がある。第三なら、離脱の分を確認する必要がある。処方が三つとも違います。

内訳を分けない習慣は、時間が経つほど直しにくくなります。過去の記録を後から分解することはできないからです。記録の粒度は、記録した時点で決まっています。

これと同じ構造は離脱率の読み方にもあり、記録の設計が後から問えることの範囲を決めるという構造と、同じ場所にあります。

三つを分けるのに、複雑な仕組みは要りません。必要なのは、取引の記録に「この相手は前回いくら払ったか」が残っていることだけです。同じ相手の前回と今回を比べれば、第一と第二は分かれます。値上げの有無は、こちらが知っています。

そして、この記録は最初から取っておく必要があります。後から遡って、当時の相手の構成を復元することはできません。復元できないので、分けられるようになるのは、記録を始めた時点より後の期間だけです。

アップセルとクロスセルは、相手の側で正反対のことが起きている

二つは「単価を上げる手法」として並べて語られますが、相手の側で起きていることは、性質が違います。

アップセルは、同じ必要に対して、より深い形を選び直す操作です。相手が解こうとしている問題は変わりません。変わるのは、その問題にどこまで踏み込むかです。

クロスセルは、別の必要を新しく認識する操作です。相手はもともとその必要を意識していなかったか、後回しにしていました。

この違いが、成立の条件を分けます。

アップセルが成立するのは、相手が問題の深さを理解したときです。「思っていたより根が深い」と分かったとき、より深い形が必要になります。理解が先で、選択が後です。

クロスセルが成立するのは、相手が別の必要に気づいたときです。気づきの材料は、たいてい最初の取引の中にあります。一つやってみたら、隣に別の問題があることが見えた。

つまり、どちらも、こちらが勧めることでは成立していません。成立させているのは、相手の側で起きた認識の変化です。

実務では、これが次の形で出ます。勧める技術を磨いても、認識が変わっていなければ、成立率は上がりません。上がるのは、その場での承諾率だけです。

承諾率と成立率は別のものです。承諾は「はい」と言った記録であり、成立は使われて効果が出た記録です。前者は当日に分かり、後者は数か月後に分かります。手元に速く返ってくるのは前者だけなので、そちらが最適化の対象になります。

勧め方が無関係だという話ではありません。必要が生じているのに選択肢が示されていなければ、選ばれません。

言えるのは、勧め方は必要条件であって、認識の変化の代わりにはならないということです。これはプロダクトローンチで扱った、外から供給された理由がインフレする構造と同じ根を持っています。認識の変化なしに承諾を得るには、外から理由を足し続けることになります。

この二つの違いは、提案の置き場所まで変えます。アップセルは、問題の深さが見えた瞬間に置くのが最も自然です。その瞬間は、たいてい取引の途中にあります。

クロスセルは、最初の取引が一区切りついた後に置くのが自然です。隣の必要が見えるのは、一つ終えた後だからです。

ところが実務では、どちらも同じ場所に置かれがちです。購入の直前です。そこが最も承諾を得やすい地点だからです。承諾率で場所を決めると、二つの手法が持っていた成立の条件が、両方とも無視されます。

段を価格で切ると、上位の段は「量が多い版」になる

段を価格の順で設計すると、上の段に何を入れるかという問いが出ます。そして、最も設計しやすい答えは「同じものを多く」です。

回数を増やす。期間を延ばす。対応する範囲を広げる。どれも上位版として成立し、価格差の説明も付きます。

この設計には、明確な帰結があります。上位版が量で定義されると、相手が上の段へ移る理由も量になります。「もっと多く必要だから」以外の理由が用意されません。

そして、量の必要は、たいてい一時的です。繁忙期が終われば、量は要らなくなります。量で上がった段は、量で下がります。

さらに、量で切った段には、こちら側の帰結もあります。上位版を売るほど、こちらの作業量が比例して増えます。単価は上がり、時間あたりの収入は変わりません。

これは労働集約型から抜け出すで扱った構造が、価格表の中に現れた形です。段の設計が量でできている限り、上の段へ行くほど時間が奪われます。

では量以外に何で差を付けるのか、という問いが残ります。

差を付ける軸は、量のほかに二つあります。

一つは、完結性です。部分を渡すか、そこだけで完結する形を渡すか。これはお試し商品の設計で扱った分け方の、上の段への適用です。

もう一つは、判断の所在です。こちらが決めて実行する形か、相手が決められるようになる形か。この二つは、値段の高低ではなく、関係の種類の違いです。

量で切ることが常に誤りではありません。実際に量が必要な領域はあります。

言えるのは、量で切った段しか持っていないと、関係が深まったことを表現する場所が価格表に無いということです。深まった関係は、量の増加としてしか記録されません。

量で切った段は、相手の側にも同じ制約をかけます。上の段を選んだ相手は、その量を使い切ることを求められます。使い切れなければ損をした感覚が残り、次の更新で下の段へ戻ります。

この制約は、梯子の上ほどきつくなります。下の段は量が小さいので、使い切れなくても損も小さくなります。上の段は量が大きいぶん、使い切れなかったときに残る感覚も大きくなります。上へ行くほど、続ける理由より降りる理由のほうが積み上がる構造です。

そして、使い切ろうとした相手は、必要でない場面でも使うことになります。回数が余っているから相談する、期間があるから続ける。量が理由になった関係は、量が尽きたときに終わります。

段を関係の種類で切るとは、どういうことか

段を関係で切るとは、それぞれの段で、判断を誰が持っているかが違うという形にすることです。

三つの形があります。

第一の形は、答えを受け取る関係です。相手は問いを持っていて、こちらが答えを渡す。速く、はっきりした結果が出ます。この段では、判断はこちらが持っています。

第二の形は、判断の材料を受け取る関係です。こちらは、どういう場合にどうなるかを渡す。相手は自分の状況に当てはめて決めます。判断は相手が持ち、材料をこちらが持っています。

第三の形は、基準そのものを組み立てる関係です。相手が自分の判断の基準を作る作業に、こちらが立ち会う。判断も材料も相手の側にあり、こちらが持つのは組み立ての順序だけです。

三つは、上へ行くほど価格が高くなるとは限りません。第一の形のほうが高いこともあります。代行のほうが手間がかかるからです。

関係で切るとは、価格の順を捨てることではなく、価格の順と関係の順を別の軸として持つことです。

この切り方には、実務上の利点があります。相手が自分でどの段にいるかを判断できます。「いま自分は答えが欲しいのか、材料が欲しいのか、基準を作りたいのか」は、相手にしか分かりません。

価格で切られた段では、この判断ができません。「高いほうが良いものだ」以外の情報が無いからです。すると選択は予算だけで決まり、必要との対応が失われます。

関係で切ると、上の段へ行くほど、こちらが渡すものが少なく見えます。代行しない、決めない、答えを言わない。渡している量は減り、相手の側に残るものは増えます。

この非対称は、説明を難しくします。量が少なく見えるものに高い値を付けることになるからです。説明できるのは、その段で何ができるようになるかを、先に示せる場合だけです。

三つの形は結局こちらの都合で分けているだけではないか、と読むこともできます。

判定できます。それぞれの段が終わったとき、相手の手元に何が残るかを比べればよいからです。第一の形では結果が残り、第二の形では判断の材料が残り、第三の形では基準が残ります。

残るものが三つとも同じなら、段は関係で切れていません。名前だけを変えて、量を変えているだけです。

三つが常に必要というわけでもありません。扱っている領域によっては、二つで足ります。必要なのは数ではなく、それぞれの段で判断の所在が違っていることです。

上の段に人がいないのは、段が足りないからではない

上位の段を作ったのに誰も来ない、という状態はよく起きます。このとき最初に出てくる処方は、段を増やすか、価格を下げるかです。

どちらも、段の側を動かす処方です。移らない理由が段の側にあるという前提が入っています。

移らない理由は、多くの場合、段の外にあります。渡っていく理由が、下の段で作られていないからです。

下の段で答えだけを受け取った相手は、答えが欲しいままです。答えが欲しい人にとって、判断の材料を渡す段は、価値が下がったように見えます。上へ行くほど手間が増えるように感じられます。

つまり、上の段が売れないのは、下の段の設計の帰結です。下で何を渡したかが、上へ渡る理由を作ります。

価格表の側では、成約率が悪いとき、どこから疑うかで扱った構造——観測できる指標は下流にあり原因は上流にある——が、この形で現れます。

下の段でも材料を渡せば、上へ行く理由が無くなるのではないか。ここは詰めておく必要があります。

この心配は、実務では逆に働きます。材料を受け取った相手は、材料の使い方を知ります。使ってみて、自分の判断の基準が足りないことに気づきます。気づいたときにはじめて、第三の形が意味を持ちます。

相手へ材料が渡らなければ、基準が足りないことにも気づきません。気づいていない必要に対して、上の段は存在しないのと同じです。

全員が上へ行くわけではありません。答えだけで足りる人はいますし、その状態は不足ではありません。

言えるのは、上へ行く人が一人も出ないなら、下の段で渡しているものを見直す番だということです。段を足す作業は、その後です。

ただし、下の段を見直すことと、下の段を薄くすることは別です。上へ行かせるために下で渡すものを減らすと、上がる人は増えるかもしれませんが、上がった理由は必要ではなく不足になります。不足で上がった相手は、上の段でも同じ不足を感じます。

上の段が売れない状態が続くと、価格を下げる処方が採られやすくなります。下げれば一定数は動き、動いたことで「価格が原因だった」という解釈が確定します。

ところが、下げた価格で入ってきた相手は、下の段で作られなかった理由のまま上の段にいます。使いこなせず、効果も出ないので更新しません。次の期には、それが上の段の継続率という別の問題になって現れます。

段の数を増やす処方にも、同じことが起きます。間に一段挟めばそこは埋まりますが、埋まった段には、上の段から降りてきた人と下の段から上がった人の両方が入っています。内訳を分けなければ、記録に残るのは「増えた」という事実だけです。

単価を上げる操作は、同時に相手を選び直している

見落とされやすい帰結が一つあります。単価を上げる操作は、必ず相手の構成を変えます。

値上げをすれば、その額を払わない層が離れます。上位版だけを目立たせれば、下の段を必要としていた層が入らなくなります。段を三つから五つに増やせば、選ぶ手間を嫌う層が減ります。

つまり、単価の設計は、価格の設計であると同時に、誰と付き合うかの設計です。後者は意図せずに行われます。

意図せずに行われるので、結果も後から現れます。単価が上がった半年後に、問い合わせの内容が変わっていることに気づく。質問の質、要求の量、話の通じ方。構成が変わったことは、数字ではなく日々の手触りで先に分かります。

この変化は、良い方向にも悪い方向にも起きます。単価を上げたことで、より深く関わりたい相手だけが残ることがあります。同時に、価格でしか判断しない層が減り、判断の速い相手が増えることもあります。

問題は、どちらが起きたかを、単価の数字からは読めないことです。上がったという記録は、両方の場合に同じ形で残ります。

相手を選ぶことは意図してやるべきではないのか、という異論があります。

そのほうが良いです。意図してやるなら、選ぶ基準を先に書けます。書いた基準は後から検証できます。

価格だけで選ぶと、基準は「払える額」になります。払える額と、こちらが渡せるものを必要としているかは、別の変数です。前者で選ぶと、後者は運任せになります。

これは価格設定を原価から始めないで扱った、値が比較対象の集合によって決まるという構造の、相手の側から見た形です。値を動かすことは、比較の集合を動かすことでもあります。

選び直しを避ける方法はありません。価格を変えなくても、時間が経てば構成は変わります。

言えるのは、単価の変更を「金額の調整」としてだけ扱うと、同時に起きている選び直しが記録されないということです。記録されなければ、半年後の手触りの変化を、原因と結び付けられません。

選び直しは、一方向にしか進みません。離れた層は戻ってきません。額を下げれば新しい層が入りますが、それは以前いた層とは別の集団です。

したがって、単価を上げる操作は、試して戻すということができません。実験として扱えないので、事前にどの層と付き合うかを決めておくほかありません。決めていなければ、決めたのは価格のほうです。

段が関係で切れているかは、どこで確かめられるか

段が関係で切れているかは、三つの指標で確かめられます。どれも単価の額ではなく、段の構造のほうを見ます。

第一の指標は、それぞれの段を、価格に触れずに説明できるかどうかです。「上位版は回数が多いです」しか言えないなら、その段は量で切れています。「上の段では決め方そのものを一緒に作ります」と言えるなら、関係で切れています。説明が価格差の正当化になっているうちは、段は価格の順のままです。

第二の指標は、上の段を選んだ相手が、選んだ理由を自分の言葉で言えるかどうかです。「良さそうだったから」「勧められたから」は、説明しやすさで選ばれたことの現れです。「いま必要なのは答えではなく基準だと思ったから」は、段の違いが伝わっていた証拠です。

第三の指標は、下の段から上の段へ移った人が、どの時点で移ったかです。提案した直後に集中しているなら、動かしているのは提案です。提案とは無関係な時期に移っているなら、動かしているのは相手の側の必要です。後者が一定の割合であることが、段が関係で切れている証拠になります。

額そのものは、三つの指標が見ていない量です。段が関係の種類で分かれている以上、確認すべきは関係の側だからです。

三つは、同じところで止まります。いずれも、段が複数あり、実際に移動が起きている場合にしか使えません。提供が一つしかない段階では、確かめる対象がありません。

この時点で打てる手は、いま渡しているものが答えなのか材料なのかを、自分ではっきりさせておくことだけです。はっきりしていれば、二つ目を作るときに、量ではない軸で切れます。

第三の指標は移った時期を記録していないと使えず、そこまで記録していない——という事情はよくあります。

多くの場合、記録されています。取引の日付は、決済の記録として自動的に残っているからです。足りないのは、提案を行った日付のほうです。

これは一行のメモで足ります。誰に、いつ、何を提案したか。提案の記録が無いと、動いたものが提案なのか必要なのかを、永久に分けられません。

段をいくつ作るか、価格差をどれだけ付けるか、いつ上位版を用意するか。ここに数字を出すことはできません。扱っている領域と、相手の必要の幅と、こちらが渡せるものの形によって、同じ数字の意味が変わるからです。出した瞬間に、その条件を見ないまま判断を肩代わりすることになります。

そこで、いまの段が何で切れているかは、上位の段の説明文を一つ読めば分かります。その説明が「同じものが多い」で書けてしまうなら、切っているのは価格です。別の必要に答えていると書けるなら、切っているのは関係の種類です。前者を後者へ移す作業は、価格表ではなく、相手の必要を数え直すところから始まります。

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