共通点の作られ方

成功者の共通点は、どうやって作られたのか|数えられない失敗

はじめに

成功者に共通する習慣。億万長者だけが持つ思考の型。こうしたリストは、書店にもタイムラインにも、途切れることなく並んでいます。たくさんの事例を観察し、そこから法則を取り出す——帰納と呼ばれる、由緒正しい推論の形式に見えます。

どの共通点を、どの順で身につけるかについては、すでに情報が揃っています。本記事が扱うのは、その一段手前です。そもそも、その「共通点」は、どのような手続きで作られているのか。

結論を先に示します。成功した人だけを集めて共通点を探すという手続きは、結論をあらかじめ含んでいます。 数えられていないのは、同じ特徴を持ちながら成功しなかった人々のほうです。

出発点に仕込まれた、ひとつの細工

「共通点」を作るやり方は、一見きわめて科学的に見えます。成功した起業家、投資家、資産家を何十人、何百人と集める。習慣、口ぐせ、信条、一日の過ごし方を丹念に調べる。多くの人に共通して見られる特徴を抜き出す。早起きである、読書家である、失敗を恐れない——こうして並んだリストが、「成功者の思考法」として差し出されます。

ところが、この手続きには、出発点に決定的な細工が仕込まれています。観察の対象を「成功した人」だけに、はじめから限定しているという細工です。

調査者は、成功者の部屋に入って共通点を探します。けれども、成功しなかった人の部屋には、足を踏み入れません。早起きで読書家で失敗を恐れず、しかし豊かにはならなかった——そういう膨大な人々は、最初から観察の枠の外に置かれています。集めているのは「成功し、かつその特徴を持つ人」だけであって、「その特徴を持ち、しかし成功しなかった人」は、一人として数えられていません。

この一点を見落とすと、リストは魔法のように説得力を帯びます。調べた成功者の多くが早起きだったのは、事実なのですから。けれども、成功しなかった人の中にも、早起きの人は山ほどいます。もし早起きの人と寝坊の人で成功する割合が変わらないのなら、「早起きは成功の共通点だ」という観察は、何も語っていないことになります。

さらにもう一段の仕掛けがあります。成功者を何百人も並べれば、何かしらの共通点は必ず見つかります。早起きでなければ夜型であることが共通点になり、読書家でなければ現場主義であることが共通点になる。結果で先にふるい分けた集団からは、どんな物語にも合う模様を、後からいくらでも取り出せます。 見つかって当然のものが、見つかっただけです。

帰ってこなかった機体は、誰も数えない

この誤りを最も鮮やかに教えてくれる話が、第二次世界大戦のさなかにありました。

当時、アメリカ軍は、帰還した爆撃機の機体を調べていました。弾痕は主翼と胴体に集中し、エンジンの周辺にはほとんど傷がない。素直に読めば、傷の多い主翼と胴体を重点的に補強すればよいことになります。

ここに、統計学者のアブラハム・ヴァルトが、まったく逆の読みを差し出しました[Wald, 1943]。装甲を足すべきは、弾痕の少ない場所、すなわちエンジンの周辺だ。 調べていたのは、あくまで「帰還できた機体」だけでした。エンジンを撃たれた機体は、そもそも基地へ帰ってこられず、調査台の上にのぼってこなかった。生き残った機体のエンジン周辺に傷が少ないのは、エンジンが安全だからではなく、そこを撃たれた機体が一機残らず墜ちていったからです。

この洞察は、後に生存バイアスと呼ばれるようになりました。生き残ったものだけを見て法則を立てると、生き残れなかったものが標本から消えているために、原因と結果がまるごと反転してしまう。

この話のこわいところは、帰還した機体が嘘をついているわけではない、という点です。 弾痕はすべて本物で、データは正確で、観察にも誤りはない。それでもなお、見えているデータだけを真に受けると、結論は正反対になる。問題は、データの正しさではなく、データから抜け落ちたものの大きさにありました。

▸ 逆因果や交絡といった、標本の偏り以外の取り違えは、成功者の思考法は、原因ではなく結果かもしれないで扱っています。

成功者本人の証言が、最も当てにならない理由

ここが、成功者の語りを考えるときに決定的になります。

成功者は、嘘をついているわけではありません。 多くは心から、自分の習慣や信念が成功をもたらしたと信じています。けれども、その誠実な実感は、墜ちていった機体のことを何ひとつ知りません。生き残った当人ほど、生き残れなかった者の存在に気づけない。 だからこそ、成功者本人の語る秘訣は、最も真摯であると同時に、最も当てにならない証言になります。

そして、私たちが手にできるのは、豊かになった人——基地へ帰ってきた機体——の話だけです。同じ習慣を持ち、同じ思考法を実践し、それでも豊かにならなかった人々は、ベストセラーにも、SNSの成功談にも登場しません。だから「成功者には、この思考法が共通している」という観察は、永遠に反証されません。 その思考法を持ちながら墜ちていった無数の人を、誰も調査台にのせないからです。

ここに、直感に反する事実があります。事例が増えることと、因果が裏づけられることは、まったく別のことです。 墜ちた機体を一機も数えないまま標本を大きくすれば、偏った結論は、偏ったまま、ますます確からしく見えてしまう。反証される機会のない信念は、いつまでも正しく見え続けます。けれども、正しく見え続けることと、正しいことは、別物です。

見えている共通点を、そのまま原因と読まないために

標本の偏りを脇に置いたとしても、なお残る取り違えがあります。観察された共通点を、ただちに「原因」とみなしてしまう癖です。

社会心理学に、基本的帰属錯誤と呼ばれる、よく知られた傾向があります[Ross, 1977/Jones & Harris, 1967]。私たちは、他人の行動や成果を説明するとき、その人の置かれた状況の力を低く見積もり、内面の性質を高く見積もりすぎる。道で転んだ人を見れば「不注意な人だ」と思い、足元の凍結を見落とす。状況の力は背景に沈み、性格や心構えだけが前景にせり出してきます。

この錯誤は、成功を前にしたときとりわけ強く働きます。ある人が富を築いたのを見て、私たちは反射的に「あの人は何をどう考えていたのか」と問う。すると答えは、思考法や心構えの側から探されます。生まれた時代の経済成長、たまたま乗れた波、相続した資本、要所での巡り合わせ——そうした状況の力は、説明の舞台から静かに降ろされます。

なぜ内面に原因を求めたがるのか。内面の物語のほうが、はるかに分かりやすく、覚えやすいからです。 「構造的に有利な立場と、複数の偶然の重なりによって富を得た」という説明は、複雑で、地味で、心に残りません。「強い信念と正しい思考法によって富を得た」という説明は、単純で、劇的で、しかも教訓にできます。

問題は、この語りやすさが、正しさとは何の関係もない、という点です。

まとめ:リストの読み方を、一段だけ変える

「成功者の共通点」は、世界をありのままに観察して見つけ出された法則ではありません。「成功」という結果で最初にふるいにかけた標本の中だけで、後から見つけ出された模様です。 ふるいの外に落ちた無数の人を勘定に入れた瞬間、その模様は跡形もなく消えるかもしれません。

ここで、はっきりさせておきます。これは、成功した個人を疑えという話でも、その人たちを嘲笑する話でもありません。 見つめているのは、標本の作られ方という、語り手の誠実さとは無関係に働く仕組みのほうです。

この一点を知っているだけで、次に共通点のリストを目にしたとき、読み方が変わります。「この特徴を持ちながら、うまくいかなかった人は、どこで数えられているのだろう」——この問いを一度はさむだけで、リストは、なぞるべき手本から、検討すべき仮説へと位置を変えます。

その全体像は、マインドセットを真似ても豊かにならない理由にまとめています。

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参考文献

【学術論文・理論】

  • Wald, A. A Method of Estimating Plane Vulnerability Based on Damage of Survivors(1943)Statistical Research Group, Columbia University(生存バイアスの起源的事例)
  • Ross, L. “The Intuitive Psychologist and His Shortcomings: Distortions in the Attribution Process” Advances in Experimental Social Psychology, 10(1977)
  • Jones, E. E., & Harris, V. A. “The Attribution of Attitudes” Journal of Experimental Social Psychology, 3(1)(1967)
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