ファネルの段に並んでいるのは、商品でも価格でも施策でもありません。並んでいるのは、相手がこちらに対して持っている関与の深さです。
一般に案内される形は、認知から購入までの流れを漏斗にした図です。上が広く、下が狭い。段を下るほど人数が減る。分かりやすく、実際に広く使われています。そして、この形が置いている前提は、ほとんど検討されないまま受け継がれています。
前提は三つあります。人は上から下へ一方向に進むこと。段の境目は購入への近さで決まること。そして、下ほど価値が高いこと。
三つとも、実際の関係の作られ方とは合いません。人は行き来しますし、段の境目を決めているのは購入への近さではなく関与の深さです。そして、購入の後にも時間は続き、多くの場合そちらのほうが長くなります。
前提が合っていないと、段ごとの施策も合わなくなります。購入への近さで並べると、段を上がる理由は「まだ買っていないから」の一つしか出てきません。この理由の中に、相手の側の情報は一つも入っていません。情報が入っていない設計では、どの段でも「次の段へ進める働きかけ」が答えになります。
関与で切ると、問いが変わります。「どうやって次の段へ進めるか」ではなく、「この段の人は、いま何を判断しようとしているか」になります。前者はこちらの行動を決め、後者は渡すべき情報を決めます。
個別の施策——件名の書き方、お試しの価格、配信の分け方——は、それぞれの記事にあります。ここで引き受けるのは、段を何で切るのかという一点と、その切り方から、マーケティング設計を扱う十八本の記事がどう並ぶのかです。切り方が決まっていない状態で施策を選ぶと、選んだ結果が良かったのかどうかを判定できません。
逆に、ここで答えを出せないものもあります。段をいくつ作るのが適当かは、扱っている領域と購入の間隔で変わるので、こちらからは決められません。関与がいま何段目にあるかを外から測る方法も、この十八本は持っていません。持っているのは、段の境目が現れる場所を観測から取る手順までです。
この十八本を貫いている原則は二つです。段は関与で切ること、そして関係が先で販売が後であること。どちらも、漏斗の図からは出てきません。図が運んでいるのは形と、その形に付いてきた三つの前提だけです。二つとも、図を使うなとは言っていません。上が広く下が狭い形は、実際の人数の減り方には合っています。入れ替わるのは、その形の中で段を何によって区切るかです。
📖 目次
- マーケティングファネルの例として示される図は、どれも同じ前提を持つ
- 漏斗の図は、どこから来たのか
- 漏斗という形が持ち込む、三つの前提
- 関与で段を切ると、こちらの行動ではなく渡す情報のほうが決まる
- 関係が先、販売が後——順序を入れ替えると何が起きるか
- 第一層——段の切り方と、入口の合流点を決める二本
- 第二層——届く経路と、最初に渡すものと、渡す時点を扱う三本
- 第三層——どこで落ちているかを診断する指標を扱う四本
- 第四層——購入の後に関係が続いているかを測る指標の四本
- 第五層——関係が続く理由の設計を扱う三本
- 第六層——書いたメールが届き、開かれるまでを扱う二本
- 六つの層に、どの順で手を付けるか
- ファネル設計の過程で、必ず起きること
- 段が関与で切れているかを、三つの見方で読む
マーケティングファネルの例として示される図は、どれも同じ前提を持つ
標準の説明は、ファネルを購買行動の可視化の道具として整理します。段を切る基準そのものは、その説明の中で一度も問われません。
内訳は一定しています。マーケティングファネルとは、顧客が商品を知ってから購入するまでの流れを図にしたものです。ファネルは漏斗を意味し、逆三角形の形をしているのが特徴として説明されます。基本の段は四つで、認知、興味・関心、比較・検討、購入。段を下るほど人数が減るため、逆三角形になります。
拡張された例もいくつか示されます。購入の後に共有や拡散を置いて砂時計の形にしたもの、購入と再検討が循環する形にしたもの、顧客体験の向上が新規獲得の費用を下げる循環として描いたもの。活用の方法として案内されるのは二つで、段ごとに人数を測ってどこで落ちているかを見つけること、段ごとに適した施策を割り当てることです。期待される効果は購買行動の可視化で、どの段に何人いて、どこで詰まっているかが分かれば、手を打つ場所が決まります。
この一式は、実務の枠組みとして当たっています。段ごとに数えることは実際に有効ですし、段によって必要な情報が違うのも事実です。外れているのは施策の割り当て方ではなく、段を切る基準のほうです。
拡張された例も、基準は変えていません。購入の後に共有や拡散の段を足した形は、購入を中間点へ移しましたが、段を切る基準は依然として、こちらの取引にどれだけ寄与するかです。したがって後半の段でも、問いは「どうやって次へ進めるか」のままになります。図の形を変えることで解けるのは、購入を終点として扱う問題までです。
並べ方そのものに欠陥があるわけではありません。販売の側から見れば、この順序は自然です。動くのは、並べ方が段を上がる理由を一つしか用意しない点です。上がる理由は「まだ買っていないから」になり、そこに相手の側の情報は入りません。
相手の情報が入っていない段の設計では、施策も相手の状態と無関係に選ばれます。残るのは、次の段へ進めるための働きかけだけです。そして、その働きかけが効かなかったとき、残る説明は「働きかけが弱かった」の一つになります。強度を上げる以外の手が出てこないのは、この経路です。
活用の方法として示される二つには、順序も入っています。測ってから施策を割り当てる、という順序です。測れる状態になっていることが前提になっていますが、測れるようになるには、段が定義されていて、その段に人を分類できる記録が要ります。記録が無い段階では、この順序はそのまま使えません。
漏斗の図は、どこから来たのか
漏斗の形は、段階の整理とは別の場所から来ています。二つを一つの図として受け取ると、どこまで当てはまるかが読めなくなります。
1898年、広告の実務家であるエリアス・セント・エルモ・ルイスが、広告文の役割を段階として整理しました。注意を引き、興味を持たせ、納得させる。本人はこれを頭字語では呼んでいません。頭字語として定着したのは、1921年にC・P・ラッセルが業界誌で使ってからです。
そして、漏斗の形そのものは、1924年にウィリアム・タウンゼントが『Bond Salesmanship』で持ち込みました。債券の営業についての本です。
由来からは、知っておく価値のある事実が二つ出てきます。
第一に、段階の整理と漏斗の形は、別の人が別の時期に作りました。段階の整理は、広告文をどう書くかという話でした。漏斗の形は、営業の見込み客をどう管理するかという話です。
第二に、漏斗の形が生まれた文脈は、個別の営業でした。債券の営業では多数の見込み先に接触して少数と契約するので、上が広く下が狭い形が実態に合っています。見込み先の数が最初に決まっていること、絞り込みが一方向であること、契約で一区切りが付くこと。この三つが揃った場面の図でした。
つまりこの図は対面の個別営業という特定の場面から来ており、現在この図が使われている場面の多くは、そこと条件が違います。
由来が違っても図が有効なら使えばよい——この反対は成り立ちますし、実際に使えます。そのうえで、由来を知っていると、どこまで当てはまるかが分かります。一方向で、一回で終わり、接触の数が最初に決まっている場面では、この形はよく当てはまります。行き来があり、購入の後も関係が続き、接触が相手の側から発生する場面では、当てはまりが弱くなります。
流通している形と最初に作られた形が違うことは、有名な枠組みでよく起こります。ここに並ぶ記事では、顧客獲得単価(CPA)でも同じ型の事例を扱っています。
由来が違うことは、その枠組みが誤りであることを意味しません。別の場面で有効になることは、起こります。言えるのは、当てはまる範囲を由来から推定できるということです。由来を知らないと、当てはまらない場面で、当てはまらない理由が分かりません。
そして、由来が忘れられた枠組みは疑われなくなります。誰が何のために作ったかが分からないものは、最初からそこにあったものとして扱われます。最初からあったものは前提として使われ、検討の対象になりません。
漏斗という形が持ち込む、三つの前提
図の形そのものが、三つの前提を運びます。運ばれる前提は言葉で説明されないので、受け取った側は前提を受け取ったことに気づきません。
第一の前提は、一方向であることです。漏斗は上から下へしか流れません。戻ることも、途中から入ることも、図の中に表現できません。実際には、人は行き来します。比較の段まで進んで、また情報を集める段へ戻る。途中の段から入ってくる人もいます。
第二の前提は、段の境目が購入への近さで決まることです。認知、興味、比較、購入。基準は、こちらの取引にどれだけ近いかです。相手の側から見ると、この基準は意味を持ちません。相手が動いているのは自分の問題に対してであって、こちらの取引に対してではありません。
第三の前提は、下ほど価値が高いことです。図の形が、下を目的地として示しています。実際には、購入は関係の途中にある一つの出来事です。前にも後にも時間があり、後のほうが長いことが多くあります。
三つの前提は、施策の選び方に直結します。一方向だと考えれば、施策は次の段へ進めるものになります。購入への近さで並んでいると考えれば、優先されるのは下の段です。下ほど価値が高いと考えれば、上の段は投資の対象になります。
三つ目の前提には、続きがあります。上の段が投資の対象になると、上の段の成果は下の段への寄与でしか測られません。その段だけで成立する価値は、計上されません。計上されないものは、作られなくなります。上の段の内容が、下へ進めるための入口としてだけ作られるようになるのは、この経路です。
上の段は入口なのだから、下へ進めるために作るのが当然に見えます。そのうえで、入口としてだけ作られた内容は、そこで読み終えた人に何も残しません。残らなければ、名前も覚えられません。次に必要が発生したときに思い出されないので、入口としての働きも弱くなります。
図を捨てるべきだという話ではありません。段に分けて考えること自体は有効です。言えるのは、段を何で切るかを図の形から受け取らないほうがよいということです。図は形しか示しておらず、切り方は図の外で決められます。
そして、三つの前提は互いを支えます。一方向だから下が目的地に見え、下が目的地だから購入への近さで並ぶ。一つだけ外しても、残りの二つが元の形へ引き戻します。したがって、切り方を変えるときには三つを同時に外すことになります。一つずつ試すと、外した効果が現れる前に元へ戻ります。
関与で段を切ると、こちらの行動ではなく渡す情報のほうが決まる
この十八本が置いている一つ目の原則は、段の中身です。段を分けているのは、相手がこちらの何をどこまで受け取ったかという関与の深さで、商品名や価格帯はその結果として後から付きます。
関与とは、その人にとってこの話がどれだけ自分ごとになっているかの度合いです。関与が浅い段では、内容を細かく吟味せず、分かりやすさや発信元の見え方で判断されます。関与が深い段では、内容そのものが吟味されます。
説得の研究では、この二つの処理の仕方が区別されてきました。リチャード・ペティとジョン・カシオッポは、内容そのものを吟味する経路と、周辺的な手がかりで判断する経路を分けて整理し、個人的な関連性が高いほど前者の経路が使われること、そして前者で形成された態度のほうが持続し、反論に耐えることを示しています(Petty & Cacioppo, 1986, Advances in Experimental Social Psychology, 19, 123–205)。
この枠組みが束ねているのは態度変容の実験であり、事業のファネル設計を測ったものではありません。射程はそこまでです。示されているのは、同じ内容でも、受け手の関与の水準によって処理のされ方が変わるという方向だけです。
段を関与で切ると、設計の問いが変わります。購入への近さで切ると、問いは「どうやって次の段へ進めるか」になります。関与で切ると、問いは「この段の人は、いま何を判断しようとしているか」になります。前者が決めるのはこちらの行動で、後者が決めるのは渡すべき情報です。
そして、関与は働きかけでは深まりません。深まるのは、その人の側で「これは自分の問題だ」という接続が起きたときです。接続を作るのは、こちらが渡した材料と、相手の側の状況です。つまり、段を上げる操作は存在しません。できるのは、接続が起きる材料を置くことだけです。
それでは施策で何も動かせないことになるのか。動かせるものはあります。材料が届く量と、届く相手の範囲と、材料の形です。動かせないのは、接続そのものです。この区別を持っていないと、動かせないものを動かそうとして、強度を上げ続けることになります。強度を上げる経路の帰結はプロダクトローンチで扱っています。
関与が深いほど良い、という話でもありません。浅い関与のまま済む場面はありますし、そこで深い関与を求めるのは、相手の時間を要求することになります。判定は、こちらが渡そうとしているものが、どの関与を必要とするかです。判断の基準を渡すなら、深い関与が要ります。一回で終わる答えを渡すなら、浅いままで足ります。
この対応を取り違えると、内容の質とは無関係に届かなくなります。深い関与を必要とする内容を浅い段へ置くと、読まれずに通過します。逆に、浅い段の内容を深い段へ置くと、既に知っていることとして扱われます。
関係が先、販売が後——順序を入れ替えると何が起きるか
もう一つの原則は、順序です。関係が先で、販売が後になります。
これは道徳的な主張ではなく、順序についての記述です。関係が成立していない相手への販売は、成立させるために外から理由を供給する必要があります。期限、特典、価格の条件。どれも、関係の側から出てきた理由ではありません。
外から供給した理由は、次回も同じ強度を要求してきます。応え続けると、理由は完全に取引の側へ移ります。移りきった関係は、条件を止めた瞬間に終わります。
逆の順序では、こうなります。関係が先に成立していれば、販売の段で必要なのは、何を提供しているかの説明だけです。説明は強度を必要としないので、繰り返しても消耗しません。
この順序は、事業の齢によって見え方が変わります。始めたばかりの時期には、関係を作る時間が無いように見えます。実際、成果が出るまでの時間は、関係を先に置くほうが長くかかります。そして、この時間の差が順序の選択を決めます。短期の数字だけを見ていると、販売を先に置く形式のほうが良く見えやすくなります。
この構造は、十八本すべてを貫いています。指標を扱う記事のほとんどが、同じ形の問題を別の場所で扱っています。指標が動くとき、動いた理由が関係の側にあるのか取引の側にあるのかは、指標そのものからは読めません。
販売を後にすれば必ずうまくいく、という話ではありません。関係が成立していても、提供しているものが必要とされていなければ、購入は起きません。言えるのは、順序を入れ替えると、入れ替えた分だけ外から理由を足し続ける必要が生まれるということです。足し続ける作業は、止められません。
この順序の違いは、こちらの側の作業の種類も変えます。販売を先に置くと、作業の中心は働きかけの設計になります。何をいつ送るか、どう提示するか、どの条件を付けるか。関係を先に置くと、作業の中心は渡すものの設計になります。何を扱う人として認識されるか、渡したものが相手の側に残るか。
二つは、必要な時間の使い方が違います。前者は締め切りのある作業で、後者は締め切りのない作業です。締め切りのある作業だけが実行される環境では、順序は自動的に前者へ寄ります。選んだ覚えがなくても、そうなります。
関係を先に置く余裕が無い時期は、実際にあります。そのうえで、この順序は全部か無しかではありません。販売を先に置く回と、関係を先に置く回を分けることはできます。分けておけば、後から比率を変えられます。分けずに一方だけで進むと、比率という概念そのものが手元に無くなります。
第一層——段の切り方と、入口の合流点を決める二本
ファネルの形は、段をどこで切るかと、入口をどこで合流させるかの二つで決まります。二本が、それぞれを引き受けます。
段の切り方は、ファネル設計の原則にあります。段を価格の順に作ると、上がる理由が「まだ高いほうを買っていないから」になり、相手の側の情報が一つも入りません。段の境目は、こちらが決めるものではなく、観測から取るものです。どの時点で相手の質問の種類が変わるかを見れば、境目は実際に現れます。質問の種類が変わる地点が、関与の段が変わった地点です。
導線設計は、経路のほうを設計します。入口をいくつ持つかと、それらをどこで合流させるかは、別の決定です。合流点を一本にする理由は、選択の負荷を下げるためではありません。履歴が一か所に累積するかどうかです。入口ごとに受け皿を作ると、同じ人が記録の上で分裂します。分裂した記録からは、その人が何を経てここまで来たかが読めません。
この二本を貫いているのは、形を決める操作が、その後の全部を制約するという構造です。段の切り方と合流点の位置は、後から変えると、それまでの記録が使えなくなります。
この二本は、最も早く決める必要があり、しかも最も情報が少ない時期に決めることになります。決めた後で情報が集まるという順序は、避けられません。したがって、この層で重要なのは正しく決めることではなく、何を根拠に決めたかを残しておくことです。根拠が残っていれば、情報が集まったときに直せます。
二つの決定は、別の軸に乗っています。段の切り方が縦の設計で、合流点の位置が横の設計です。縦は、相手がどこまで進んでいるかを表します。横は、その人がどの入口から入ってきたかを表します。
二つを混同すると、入口の違いが段の違いとして扱われます。「検索から来た人」と「紹介から来た人」を別の段に置くと、同じ関与の相手が別々に管理されます。分かれた記録は、後から合わせられません。
入口によって最初の関与が違うことは、実際にあります。紹介から来た人は、最初から深い関与を持っていることが多くあります。言えるのは、それは初期値の違いであって、段そのものの違いではないということです。
この層を早く決めることには、代償もあります。決めた形が、しばらくのあいだ見えるものを限定します。段を三つに切れば、記録の上には三種類の人しか現れません。四つ目の段が実在していても、記録には出てきません。したがって、決めた形そのものを疑う機会は、外から来ないことになります。
第二層——届く経路と、最初に渡すものと、渡す時点を扱う三本
関係の始まりで渡したものは、その後ずっと基準として残ります。最初の受け渡しには、三本が並びます。
リスト集めの前提は、到達の経路の側から入ります。持っているのは名前ではなく、その人に届く経路です。そして経路は、相手の継続的な同意の上にしか成立しません。集めるという語は在庫の比喩を持ち込みますが、在庫は減らず、同意は減ります。この差が、名簿を資産として扱うときの読み違いを作ります。
最初に渡すものの設計は、お試し商品の設計にあります。「安く見られる」の実体は金額ではなく、比較される対象の集合です。分ける軸は、量ではなく完結性です。本番を縮小した形で渡せば「薄い本番」が経験され、部分を完全に実行する形で渡せば「本番の質」が経験されます。同じ価格でも、経験されるものが違います。
プロダクトローンチは、購入の時点を集中させる手法です。中心にあるのは情報の出し方ではなく、「今買う理由」を外から供給することです。代償は二つあり、次回に同じ強度を要求すること、そして期限で決めた判断が判断の基準として相手の側に残らないことです。
この三本を貫いているのは、最初に渡したものが、その後の基準になるという構造です。無料で渡した範囲は、次に有料になったときの比較対象になります。期限で決めさせた経験は、次も期限を必要とします。
最初の設計を完璧にする必要はありません。変えられます。変えられないのは、既に渡した相手の側に残った基準です。したがって、変えるときには、なぜ変えたかの説明が要ります。
三本は、着手できる順序が決まっています。経路を持つことが先で、何を渡すかが次、いつ渡すかが最後です。この順序が逆になると、渡すものを設計してから届ける手段を探すことになります。手段を後から探すと、既にある手段の中から選ぶことになり、選択肢は借りた経路に限られます。順序を守れば速く進む、という話ではありません。経路を先に作る期間は、渡すものがまだ何も無い期間でもあります。
そして、三本目の手法は、一本目と二本目が成立していない状態でも実行できます。実行できるので、順序を飛ばして着手されやすい手法です。飛ばして実行した場合、集中させた購入の後に関係が残りません。経路を持っていないので次の接触ができず、渡したものが基準として残っていないので、次の判断にも使われません。
第三層——どこで落ちているかを診断する指標を扱う四本
診断に使う指標は、落ちている場所を教えますが、落ちた理由は教えません。読み方について、四本があります。
成約率が悪いとき、どこから疑うかでは、診断の順序が問題になります。成約率は単独の指標ではなく、複数の割合の積です。そして、記録が自動的に残るのは下流だけなので、診断は構造的に下流へ偏ります。
売れない原因の診断手順は、「売れない」という言葉が指しているものを五つに分けます。見られていない、読まれていない、自分の話だと思われていない、いまではない、自分で決められない。対処が五つとも違います。
顧客獲得単価(CPA)では、「一件」の定義が測る段によって変わります。そして、測りやすさと意味の重さは、逆に並びます。
離脱率の読み方が名指すのは、観測できるのが残った側だけだという構造です。去った人の理由は、去った後には取得できません。
四本に共通するのは、指標が示すのは場所であって理由ではないという点です。どこで落ちているかは分かりますが、なぜ落ちたかは指標の中に入っていません。そして四本とも、測る段を目標に置くと、その段が最適化の対象になるという同じ帰結を、別の場所で扱っています。この帰結は避けられないので、どの段を目標に置くかを選ぶことが、設計の実質になります。
この層の記事は、どれも「もっと測れ」という結論を持ちません。測る項目を増やすと、増えた項目のそれぞれが最適化の対象になるからです。必要なのは、測る項目を選ぶことです。
選ぶ基準を一つ置きます。その数字が動いたときに、こちらが何をするかが決まっているか。決まっていない数字は、見ても行動が変わりません。行動が変わらない数字を並べておくと、判断の材料が増えたように見えて、実際には見る対象が増えただけになります。
後で使うかもしれないので記録だけはしておきたい、という要求は残ります。記録と表示は別です。記録は多くてよく、常時見る対象は少ないほうがよい。二つを分けておけば、後から遡ることもできます。分けていないと、記録した全部が毎月の確認の対象になります。確認の対象が増えると、一つあたりに使う時間が減り、どれも浅くしか見なくなります。
第四層——購入の後に関係が続いているかを測る指標の四本
購入の後を測る指標は、関係が厚くなっても、去りにくくなっても、同じ向きに動きます。その区別に、四本が当たります。
リピート率を動かすのは、施策ではなく関係の設計は、二度目の購入を「関係がまだ続いていること」の観測として読み直します。理由を取引の側に置くと、条件の更新が必要になります。
契約が続く条件は、継続率を決めるのは、中身ではなく意味づけの共有にあります。継続率が数えているのは「まだ止めていない」であって「続けている」ではありません。止めにくさで数字を保つ経路が、常に開いています。
顧客生涯価値(LTV)が解剖するのは、将来の見積もりを現在へ畳む操作です。畳んだ数字は、いま目の前の相手をどう扱うかを決める側へ回ります。扱いが結果を作るので、予測は自分で当たりにいきます。
顧客単価の上げ方の論点は、段を何で切るかです。価格で切ると、上位の段は「同じものの量が多い版」になります。
四本に共通するのは、同じ数字が正反対の二つの状態で上がるという点です。厚くなった関係と、解除しにくい状態は、指標の上では見分けが付きません。
区別する方法も、四本で共通しています。去る経路を実際に開いてみることです。開いても数字が動かないなら、支えているのは関係の側です。動いたなら、支えていたのは去りにくさの側でした。
実行の抵抗は大きくなります。下振れするかもしれない操作を、確かめるためだけに行う形になるからです。そして、行わないかぎり、いまの数字を支えているものが関係なのか摩擦なのかは、判定の材料そのものが手に入りません。
対象は絞れます。一部の相手にだけ、更新の時期を事前に知らせ、止める方法を明示する形でも判定は付きます。範囲を限れば、下振れの幅も限られます。
この四本は、事業の齢がある程度に達していないと使えません。継続や再購入は、時間が経たないと発生しないからです。齢が足りない段階で見えるのは、比率ではなく個別の出来事です。促していないのに二度目が起きた相手がいたか。内容そのものについて具体的な返信を書いてきた相手がいたか。母数が小さいうちは、割合よりもこの一件のほうが、次の判断に使えます。
第五層——関係が続く理由の設計を扱う三本
関係が続く理由を作る設計は、短期の数字とは逆を向く期間を必ず持ちます。期間の扱い方は、三本に分かれます。
リピート施策が一巡して戻る場所は、施策の一覧が一巡した後に何が残るかを数えます。一覧の項目の多くは、理由を取引の側に置くものです。一巡して戻る場所は、施策の外側にあります。
セグメント配信は、分ける軸のほうへ問いを移します。属性で分ける操作は、集団について観測されたことを個人へ当てはめる推論を含んでいます。そして、軸を決めているのは重要度ではなく取りやすさです。属性は登録時に取れ、状態は取れません。この差が、分類の軸を決めています。
教育マーケティングの分界では、情報提供の中身が分かれ目になります。答えを渡された人は次も聞きに来て、理由を渡された人は次は自分で判断します。
この三本を貫いているのは、短期の数字が、長期の状態と逆を向くという構造です。施策で作った理由のほうが速く効き、属性で分けたほうが手間が少なく、答えを渡したほうが満足度は高くなります。そして三本とも、逆を向いていることを知っていれば、短期の数字が悪いときに設計を捨てずに済むという同じ実務上の帰結を持っています。知らなければ、判断の材料は短期の数字だけになります。
短期の数字を無視してよいという話ではありません。事業が続かなければ、長期もありません。言えるのは、二つが逆を向く期間があると知っていることが、設計を保つ条件だということです。
三本は、一本目が「何を支えているか」、二本目が「誰に向けるか」、三本目が「何を渡すか」に対応します。三つは独立ではありません。渡しているものが答えだけなら、分ける軸を状態にしても意味がありません。どの状態の人にも、同じ答えを渡すことになるからです。逆に、理由を渡す形式を取っていれば、状態によって必要な理由が違うので、分ける意味が出ます。したがって、順序は三本目が先で、二本目が後になります。
この順序も、短期の数字とは逆を向きます。分ける作業は今週できますが、渡すものの設計には時間がかかります。着手のしやすさで順序を決めると、また逆になります。
三本とも、効いているかどうかの確認に時間がかかる点も共通しています。理由を渡した結果が現れるのは、次に相手が判断する場面であって、渡した直後ではありません。確認に時間がかかる設計は、短期の数字で評価すると、負けやすくなります。評価の期間を先に決めておくことが、この層を保つ条件になります。
第六層——書いたメールが届き、開かれるまでを扱う二本
届ける手段の層は、改善しやすく見えて、効果の上限が低い層です。上限の在り処は、二本が示します。
メルマガの書き方が特定するのは、開封が決まる場所です。開く前に見えているのは差出人と件名だけで、件名を読むかどうかを決めているのは差出人の名前です。そして、名前がその人の重要度の順序のどこに入るかは、過去に受け取った一通ずつが作っています。今日の一通の開かれ方は、過去数か月の帰結です。
開封率の正体は、その指標が何を数えているかを解きます。数えているのは読み込みの回数であって、読んだ回数ではありません。2021年以降、この測定は受け取る側の環境によって上振れするようになりました。
二本に共通するのは、手元の数字が、こちらの操作以外の要因で動くという点です。名簿の構成、測定の仕組み、分母の取り方。したがって、この層で使えるのは、同じ条件で測った自分の数字の推移だけです。他と比べることには、桁の確認以上の意味がありません。
この層は、改善しやすく見えます。件名は毎回書くので、毎回改善できます。改善が終わらないので、時間はいくらでも使えます。そして、使った時間の効果は、上流の層に比べて小さいものです。届き方を良くしても、届けている内容が接続していなければ、名前の位置は上がりません。
この層が重要でないという話ではありません。届かなければ、上流でどれだけ良いものを作っても意味がありません。言えるのは、この層の問題は上限が低いということです。届いていないものを届くようにする効果は大きく、既に届いているものの届き方を良くする効果は小さい。二つは同じ「改善」として扱われますが、大きさが違います。
では、この層はどこまでやれば足りるのか。届いているかどうかが確認できる状態になれば、足りています。届かなかった数が把握でき、開かれた数が同じ条件で比較でき、名簿の登録時期で分けて見られる。この三つが揃えば、それ以上の精度は判断を変えません。
そして、この層では改善の実感が強く得られます。毎回書き、毎回数字が返ってくるからです。実感が強いので、上流の層より多くの時間が配分されがちになります。
配分を戻す方法は、上限の側から決めることです。この層に使う時間を先に区切っておくと、余った時間が自動的に上流へ回ります。区切らずに「良くなるまでやる」形にすると、良くなり続けるので終わりません。終わらない作業は、他の層の時間を無制限に吸います。
六つの層に、どの順で手を付けるか
十八本の記事は、書かれている順に読む必要はありません。そのうえで、設計として手を付ける順序には依存関係があります。
最初に決まっているべきなのは、第一層です。段の切り方と合流点の位置は、他の全部の前提になります。ここが決まっていないと、測っても意味が定まりません。
次に第二層です。最初に何を渡すかが、その後の基準を作ります。ここで渡したものは取り消せないので、早い段階で決めるほうが安く済みます。
第三層と第四層は、記録が溜まってから使います。事業の齢が浅い時期には、比率が読めるだけの件数がありません。件数が少ない時期に比率で判断すると、動いたのが一人か二人であることが見えません。
第五層と第六層は、続けながら調整します。どちらも、一度決めて終わりにはなりません。
この順序には、実務上の困難があります。第一層と第二層は、最も情報が少ない時期に決めることになります。情報が集まるのは、第三層と第四層が使えるようになってからです。したがって、順序は「決めてから測る」になります。測ってから決めることはできません。
最初の決定が当てずっぽうになる、ということにはなりません。根拠を実測に置けないだけで、根拠そのものは置けます。何を扱う事業なのか、誰の何を解くのか、どこまでを自分の範囲とするのか。これらは測定を必要としません。
そして、測定から始めると、いまの形が作った数字を、いまの形の評価に使うことになります。齢の合わない測定は、「動いていない」と「まだ動いていない」を区別できません。
この順序には、現実的な例外があります。既に動いている事業を作り直す場合です。この場合、記録は既にあります。そのうえで、その記録は現在の形が作ったものなので、現在の形の外側については何も教えません。段の切り方を変えるかどうかの判断に、いまの段の数字は使えません。
使えるのは、いまの形の中でうまくいっていない場所を特定することまでです。そこから先、切り方そのものを変えるかどうかは、測定ではなく設計の判断になります。
そして、切り方を変える判断には、代償が伴います。変えた時点で、それまでの記録は比較の対象として使えなくなります。変えた後の数字が良くなったのか悪くなったのかも、しばらく読めません。読めない期間を織り込めるかどうかが、変えるかどうかの実質的な条件になります。
そして、記録が多いほど、この区別は難しくなります。材料が多いと、材料から答えが出るように見えるからです。出ないものは、どれだけ材料を集めても出ません。
ファネル設計の過程で、必ず起きること
十八本を通して見ると、同じ形の出来事が繰り返し現れます。四つあります。
第一に、速く効くものと遅く効くものが、同じ列に並んで示されます。施策の一覧、改善の助言、指標の一覧。一列に並んだ時点で、選ぶ側からは同じ性質のものに見えます。そして、選択は手間の少ない順に落ち着きます。手間の少ない順は、効果の短い順と重なりやすくなります。速く効くものは運用の作業を発生させ、発生した作業が遅く効く側の時間を奪います。
第二に、測った段が最適化の対象になります。これは避けられません。測るという操作自体が、その段を目標に変えます。したがって、問いは「何を測るか」ではなく「何を目標に置いてよいか」になります。目標に置いた瞬間、その数字は置く前と同じ意味を保ちません。
第三に、指標は正反対の二つの状態で同じように動きます。関係が厚くなって上がる場合と、去りにくくなって上がる場合。目的を果たして去る場合と、失望して去る場合。区別する方法は、どの場合も同じ形をしています。相手が自由に去れる状態にしたうえで、何が起きるかを見ることです。これは短期の数字を下げる操作なので、実行の抵抗が最も大きい確認になります。
第四に、どの層でも、確認のために最も有効な操作が、最も実行されにくい操作になっています。去る経路を開く、施策を止めてみる、件名を変えずに送る。どれも短期の数字を下げるか、下げる可能性を持ちます。
四つとも、知っていれば避けられるという性質のものではありません。知っていても、忙しい時期には手間の少ないほうが選ばれます。知っていることの効果は、選んだ後に自覚が残ることです。自覚が残っていれば、数か月後に戻れます。残っていなければ、選んだ覚えのない構造ができあがります。
自覚を残す方法は、一行のメモで足ります。「今月は速く効くほうを選んだ」と書いておく。書いてあれば、三か月後に読み返したときに、選択だったことが分かります。書いていなければ、三か月後に見えるのは結果だけです。結果からは、それが選択の帰結なのか、そうなるほかなかったのかが読めません。
実行されにくいことは、能力の問題ではありません。数字を目標として持っている限り、下げる操作は常に損に見えるという構造の問題です。したがって、対処も構造の側にあります——確認の期間を先に決めておき、その期間は数字を評価の対象から外す、という形です。
段が関与で切れているかを、三つの見方で読む
段の切り方が正しいかどうかは読めます。読むときに見るのは、段ごとの人数ではなく、段の切り方そのものです。
第一の見方は、それぞれの段を、価格と購入の近さに触れずに説明できるかどうかです。「まだ買っていない人」「一度買った人」しか言えないなら、段は取引の側で切れています。「まだ何が問題か整理している段階の人」と言えるなら、関与で切れています。
第二の見方は、同じ人が段を戻ることがあるかどうかです。記録の上で戻れない設計になっているなら、一方向の前提がそのまま実装されています。実際には人は戻るので、戻りが記録できない設計では、実態が見えません。
第三の見方は、購入の後に段がいくつあるかです。購入で終わっているなら、その図は販売の順で並んでいます。購入の後にも関与の段があるなら、関係の順で並んでいます。十八本のうち、購入より後を扱うものが七本あるのは、この理由からです。
三つの見方は、どれも人数を数えていません。段が関与で切れているかどうかが問いである以上、確認すべきは切り方の側だからです。
三つには、共通の適用条件があります。いずれも、段が複数あり、記録が一定期間続いている場合にしか使えません。始めたばかりの段階では、確かめる対象がありません。この段階でできるのは、いま自分が持っている段を、購入への近さ以外の言葉で書いてみることです。書けなければ、段は取引の側で切れています。書けたなら、その言葉が観測の出発点になります。
第三の見方は、購入の後に段があることを求めています。一度きりの取引が中心の事業には当てはまらないように見えますが、当てはまり方が変わるだけです。一度きりの取引でも、購入の後に紹介と再訪があります。その二つは、別の関与の段です。段が無いのは、一度きりだからではなく、後の段を設計していないからであることが多くあります。設計していなければ、購入の後に起きたことは記録されず、記録されなければ存在しないことになります。
そのうえで、本当に一度きりで終わる領域はあります。その場合、第三の見方は使えません。使えるのは、第一と第二の二つになります。
漏斗の図は、上が広く下が狭い形と、段の切り方という二つのものを、一つの図として運んでいます。形のほうは1924年の債券営業から来ており、切り方のほうは図の外で決められます。分けて見れば、形を残したまま切り方だけを入れ替えることができます。
図が間違っていたのではありません。段に分けて数えることは有効で、そこは変わりません。動いたのは、段を何で切るかという一点です。関与で切ると、段ごとに渡すべきものが決まり、渡したものが効いたかどうかを、次の段の人数ではなく相手の判断の中身で読めるようになります。
いま自分のファネルが何の順で並んでいるかは、段の切り方を読む三つの見方で読めます。読めた結果が販売の順だったとしても、それは失敗ではありません。広く使われている図がその順で並んでいる以上、そこから始まるほうが普通です。
なお、この設計を作り直す作業が、事業の何を作り直しているのかは、構造的自律にまとめてあります。






